金融庁「金融検査マニュアル」の廃止の見通しと今後
金融検査マニュアルとは
金融検査マニュアルは、バブル経済崩壊後の平成11年(1999年)に制定されました。
金融庁の検査官が、金融機関の検査(金融庁検査)を行う際に用いるマニュアルの「通称」です。
バブル崩壊に伴う不良債権の増大により、金融機関の経営が悪化したことが発端となり作成されました。
金融機関が不良債権を抱え経営の悪化による混乱を回避するため、金融庁が定期的に検査に入り、金融機関の資産の状況や業務の体制などをチェックする際の指針となるものです。
金融庁の方向転換
制定されてから18年の歳月がたち、運用の弊害がみられるようになってきました。
主な弊害は、①マニュアルを基に経営を行うので金融機関が考えなくなった、②安全性を重視し融資が消極的で、安全な企業にしか貸さなくなった、ことです。
大ヒットしたドラマ「半沢直樹」には、金融庁検査がいかに大変であったかを伝えるシーンもあります。
これらの弊害のため、銀行にはお金が余っているにもかかわらず貸し出しが増えていない状況となりました。日銀がいくら金利を下げ(いまやマイナス金利)ても貸し出しが増えていない状況です。
そこで金融庁は、事業性を評価した貸し出しを推奨するため、廃止の方向性に舵を切りました。
今後の見通し
それでは、今後はどのようになるのでしょうか?
個人的には金融庁検査マニュアルが無くなるからと言って、融資に積極的になるとはすぐには難しいと考えます。
これまでマニュアルに沿った経営を行っていた金融機関が、急に事業性評価を見出せる目利き能力を発揮できるとは思えないからです。
金融機関はこれまでは基本的に、担保を重視して、過去の財務諸表から貸し出しを行ってきました。18年間も続けていることは、人材がいないとも言えます。現在の40歳くらいまでの行員は、金融検査マニュアルを重視した融資の経験しかないのです。またそれ以上の行員についても、当時の失敗を招いたやりかたを若いころ経験していた行員です。これらを理由に、簡単に方針転換できないと考えます。
中小企業にとっては
では、中小企業にとってはどのように変化をするのでしょうか?
個人的には、「これまで以上に貸し出しが渋ることはない」と考えます。
しかしそれは、全体での話です。金融機関も徐々に事業性評価に基づく融資を行っていけば、将来性のない会社についてはますます厳しい状況に追い込まれる可能性はあると考えます。
金融庁の思惑通り、事業性評価に基づく融資が進めば進むほど、事業計画などが重視されます。
もちろん、担保もあり毎年の収益力がある会社にとっては事業計画がなくてもこれまでと同じように借り入れることは可能と思いますが、それ以外の会社については、これまで以上に事業計画の提出を求められると思います。
まとめ
金融庁が方針を転換したことにより、事業計画書をしっかり作成できる企業ほど重宝されると考えます。
すぐには変わらないでしょうが、各金融機関がノウハウを蓄積するにつれ、事業計画書が重視されると思いますので、今の段階から、企業側も事業計画書を作成できるようになっていることが必要です。
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末信 公平
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