税理士は税金の専門家~お金の計算と経営は全く別物
お金の計算と経営は全く別物
多くの経営者の方にとって、身近な経営の相談相手の一番に挙げられているのは税理士・会計士です。
2016年版中小企業白書によると、リスクテイク行動をとるうえで相談・検討する相手
1位:税理士・会計士等 60.2%
2位:金融機関 44.0%
3位:従業員 30.8%
4位:コンサルタント 25.8%
5位:販売先 17.5%
となっています。
(2016年中小企業白書より)
私は中小企業診断士なのでコンサルタントに分類されますが、経営の相談相手の1位が税理士・会計士となっているので、頑張らなくてはという思いです。
税理士登録をされている人数は76,493人(平成29年3月31日現在)に対し、中小企業診断士は23,145人(平成27年7月1日現在)です。独立している中小企業診断士は全体の30%と言われていますので、おおよそ7,000人しかコンサルタントとして活動をしていないということです。税理士との差は10倍以上にもなります。その分、一般の人が出会う確率は少ないと言えます。
ただ、経営コンサルタントは誰にでもなれるもの(自分で宣言すればなれます)なので、実際にはもっとコンサルタントと呼ばれる方は多いと思います。
圧倒的知名度と経営者とかかわりを持つ税理士
税理士という職業を知らない人は少ないと思います。
税理士とは「税務に関する職業専門家。独立した公正な立場において納税義務の適正な実現を図ることを使命とする(税理士法1条)」と言うように、税務に関する専門家です。
しかしながら、経営相談の相手に税理士が選ばれるのはなぜでしょうか?
考える理由の一つに「圧倒的知名度」があると思います。
ほとんどの会社は税理士さんのお世話になり、知らない人はいません。新たに会社をつくれば、多くの人は税理士さんのお世話になります。
それだけ始めから経営者と関りを持ち、身近な存在が税理士さんになります。
ところで税理士ってどうやってなるの?
ところで、税理士と名乗るにはどうすればいいかご存知ですか?
実は税理士になるには国家試験に合格する以外にもいくつかルートがあります。
最も有名なルートは国家試験に合格する事でなれます。
他にも、大学院を出たり、税務署等に長年勤務をすれば国家試験を免除されたりします。
他には公認会計士や弁護士資格と持つ人もなれます。
税理士は国家試験に合格しないとなれないものとばかり思っていたので、この事実を知ったときには驚きました。
では、どれくらいの人が国家試験に合格しているのでしょうか?内訳をみてみましょう。
資格別 | 人数 | % |
国家試験合格者 | 34,746人 | 45.42% |
試験免除者 | 27,036人 | 35.34% |
税務署等出身特別試験合格者 | 4,756人 | 6.22% |
公認会計士 | 9,315人 | 12.18% |
その他 | 640人 | 0.83% |
合計 | 76,493人 | 100,00% |
(平成29年3月31日現在)
となっています。
予想以上に試験を免除された人が多いですね。
次に、近年の登録者の内訳をみてみます。
資格別 | 人数 | % |
国家試験合格者 | 850人 | 29.46% |
試験免除者 | 1,452人 | 50.33% |
税務署等出身特別試験合格者 | 1人 | 0.03% |
公認会計士 | 175人 | 17.92% |
その他 | 65人 | 2.25% |
合計 | 2,885人 | 100,00% |
(平成28年4月1日~平成29年3月31日の税理士登録者数)
となっています。
なんと国家試験に合格して登録された方は30%しかおらず、何らかの試験を免除された方が50%と半分を超えています。
もちろん試験の免除を受けるには、「商学の学位」「法学の学位」「財政学の学位」「会計に属するの学位」「税法に属する学位」など、大学院に進学する必要があり、国家試験合格者と試験免除者のどちらかが優れている、優れていないという事は言えません。
税理士試験の科目
では国家試験を合格するにはどれだけの科目が必要なのでしょうか?
必須科目として「簿記論」「財務諸表論」の2科目。
選択必須科目として「所得税法」か「法人税法」のどちらか1科目。
選択科目として「相続税法」「消費税法」「事業税法」「国税徴収法」「酒税法」「住民税」「固定資産税」のうち2科目。
合計5科目の合格で税理士試験に合格することができます。
経営に関する事は学んでいない
上記の税理士試験科目を見て気づいたことは、
経営に関することを一切学んでいない
ということです。
そもそもが、「税務に関する職業専門家」なので当たり前ですが、税理士=経営のことのわかる専門家、とは言えません。
もちろん、長年の経験の積み重ね、その後独自に経営の勉強をされている方もいますので、コンサルタントができないという訳ではありません。
会社のお金の計算ができれば経営の事がわかるなら、財務経理担当者も経営のことがわかることになる
税理士さんは会社の会計記帳を手伝ったり(代行)するので、会計の事は詳しいです。
(簿記3級もわからない税理士がいるとベテランの税理士の先生から聞いた時には驚きましたが)
しかし、会計と経営は違います。
会計ができても経営はわかりません。
わかった風になるだけです。
もし会計ができれば経営の事もわかるのであれば、財務経理の担当者は皆、経営のことがわかることになります。
もちろん会計ができたほうが、お金の流れや成り立ちがわかるので、会社の理解は進みます。
しかし、実際には、財務経理の担当者は経営の事がわかっているわけではありません。
私自身、財務経理の仕事をしていましたが、わかった風であって、実際のところ経営の事をわかっていたとは言えませんでした。
餅は餅屋
最近では経営コンサルも行う税理士の方も見受けられます。
AIが進化すれば、会計記帳などの仕事も徐々になくなるでしょうし、税務申告も自分でする人も増えるでしょう。
そうした場合、生き残りをかけてコンサルタント業務を行おうと思うのは自然の流れと思います。
しかしながら、主軸が税務申告の人が経営コンサルを行うのでは、そもそも経験の蓄積が少なくなります。
少なくとも、専門で経営コンサルを行う人は、100%の時間を経営コンサルに費やしているので、その経験の差はなかなか埋まるものではありません。
結局は、餅は餅屋と言う事になると思います。
もちろん勉強をしているからと言ってコンサルタントができる訳ではない
とは言え、もちろん経営の勉強をしているからと言ってコンサルタントができる訳ではありません。
大学院でMBAを学んだ人や中小企業診断士が、全員優れた経営コンサルタントと言うわけでもありません。
逆に勉強をしなくても、自身の経験などだけでも優れた経営コンサルタントの方もいます。
経営者の相談相手は「親身になりつつ、客観的に、時には耳の痛い意見を言ってくれる人」
私の考える経営者の良い相談相手は
「親身になりつつ、客観的に、時には耳の痛い意見を言ってくれる人」
と考えています。
コンサルタントだからと言って全てが正しいわけでなく、勉強しているからと言って正解を知っている訳でもありません。
むしろ経営は会社によって正解はバラバラです。
そういった意味でも、相談相手として良いのは、
親身になって考えてくれる人。
次に、幅広い経営の知識をもって、色々な角度から客観的に見れる人。
そして、時には耳の痛い事でも言ってくれる人。
この三点を満たす人に相談をするのが良いと思います。
まとめ
経営の相談をする相手を選ぶのは、実際の会社の課題に応じて変わってきます。
税務の事であれば税理士の先生でしょうし、労務問題の事であれば社労士の先生でしょう。
資金繰りに困っているのであれば、資金繰りに強い人でしょう。
経営全般の事であれば、全体を見渡せる人に相談をするのが良いでしょう。得てして、社長が課題と思っていたことと違うところが真の課題だったりします。
「親身になりつつ、客観的に、時には耳の痛い意見を言ってくれる人」
を探しておくのが良いと思います。
経営者は孤独で、全責任を負って意思決定をする必要があります。
そのような経営者の方の力になれればと日々思っています。
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末信 公平
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