事業承継3つの要素と経営理念・思いの承継
事業承継は株式の移転や経営権の移譲だけではない
今回も中小企業庁「経営者のための事業承継マニュアル」を元に、事業承継で後継者に託す要素をお話します。
後継者に託す3つの要素とは
事業承継で後継者に継がせるのは、株式や権限だけではありません。
事業承継の構成要素として人(経営)、資産、知的資産の3つがあります。
人(経営)
後継者の育成には5~10年ほどかかるので、事前の準備が必要とされています。
・経営権
・後継者の選定、育成
・後継者との対話
・後継者教育
資産
経営者の個人資産について、会社との関係を整理する必要があります。
いわゆる目に見える資産が対象となります。
・株式
・事業用資産(設備・不動産 等)
・資金(運転資金、借入金 等)
・許認可
知的資産
こちらは目に見えない資産となります。
経営者と従業員の信頼関係も含まれるとされます。
・経営理念
・経営者の信用
・取引先との人脈
・従業員の技術、ノウハウ
・顧客情報
経営理念・想いの承継の重要性
事業承継の根幹のひとつとして、自社の経営理念を承継することの重要性を忘れてはなりません。
いわゆる老舗企業では、時代が変わっても受け継いでいく想いを大切にしている例が多く見られます。このことは、資産や経営権のみならず、会社の理念や経営者の想いを伝承することの重要さを示しています。
その意味でも、事業承継を見据えて、経営者が過去から現在までを振り返りながら、経営に対する想い、価値観、信条を再確認するプロセスは、事業承継の本質といえます。
可能であれば明文化し、後継者や従業員と共有しておけば、事業承継後もブレることのない強さを維持できるでしょう。
(中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル より)
事業承継には、単なる形上の承継だけでなく、理念や経営者の想いを伝承することが重要としています。その方法として、「知的資産経営報告書」や「事業価値を高める経営レポート」の作成を勧めています。現経営者と後継者が一緒に作成することがポイントとされ、作成を通じて事業の意義や自社の強み、現経営者の想いを棚卸しながら後継者と共有して承継をします。
事業承継5つのステップ
- 事業承継に向けた準備の必要性の認識
- 経営状況・経営課題等の把握(見える化)
- 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
- 事業承継計画策定
- 事業承継の実行
ステップ1 事業承継の準備の必要性を認識
従業員の雇用や、取引先との信頼関係など、会社が周囲にあたえる影響は小さいものではありません。引継ぎといっても経営者の身内だけの問題ではないことをあらためて理解しておく必要があります。
後継者を次期経営者として必要な能力を備えた人物として育成することは、一朝一夕ではできません。また、事業用資産や経営資源の承継も十分な時間を取って計画的に進めていく必要があります。
事業承継を着実に進めるためには、早めの着手が肝要です。
(中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル より)
事業承継は、単に身内の問題だけで留まらず、従業員、取引先など多くの関係者に影響を与えます。
早めに着手をすれば、その分課題を解決する時間がとれるので、企業の価値を高めることができます。
しっかりと企業価値を高めて後継者に引き継ぐことも、経営者の大事な仕事の一つです。
ステップ2 経営状況・課題を「見える化」(可視化)
未来に向けて経営方針を定める必要があります。その最初の一歩は、会社の経営状況を把握することです。
事業をこれからも維持・成長させていくために、利益を確保できる仕組みになっているか、商品やサービスの内容は他社と比べて競争力を持っているかなどを点検しましょう。(中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル より)
まず、経営状態を客観的に把握し、その後、経営方針を定めます。3つの見える化を進め、事業承継の円滑化を図ります。
①事業の見える化のメリット
事業の将来性の分析や会社の経営体質の確認を行い、会社の強み・弱みを再認識。
これにより取り組むべき課題を洗い出す。
②資産の見える化のメリット
経営者の個人資産について会社との貸借関係などを確認する。
後継者に残せる経営資源を明確にできれば、後継者の不安も解消される。
③財務の見得る化のメリット
適切な会計処理を通じて、客観的な財務状況を明らかにする。
これにより銀行や取引先からの信用度も上がり、資金調達・取引の円滑化にもつながる。
(中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル より)
ステップ3 事業承継に向けて会社を「磨き上げ」
企業価値の高い魅力的な会社とは、どのようなものでしょうか。
一つは、他社に負けない「強み」を持った会社。
もう一つは、業務の流れに無駄がない、効率的な組織体制を構築した会社です。
自社が強みを有する分野の業務を拡大していくとともに、各部署の権限、役割を明確にして業務がスムーズに進行する事業の運営体制を整備しましょう。
(中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル より)
強みを伸ばして、効率的な組織体制を整備することが、磨き上げとなります。
事業承継が無くても磨き上げていく必要があるモノですが、事業承継を機に経営状況・課題を認識して磨き上げを行いましょう。
磨き上げ事例
①従業員との情報共有で生産体制強化
月次での会計処理を行い従業員にも公開し、実績と目標を共有化。従業員の意識向上により製品ロスの減少と品質の安定化が図られ、生産体制の強化に繋がった。
②弱みを強みに変えて受注アップ
旧型設備での小ロット生産は弱みかと思っていたが、その機動性を逆手にとって経営資源を集中。 大手企業では対応できない小ロット案件の受注が増加した。
③従業員の経営参加でモチベーション向上
従業員が全員参加する会議で会社の将来について自由に議論し、実際に経営計画に盛り込む。従業員が主体性を持てるようになり、モチベーションも向上。
(中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル より)
ステップ4~5 事業承継の計画策定から実行まで
経営の「見える化」、会社の「磨き上げ」を進める過程で明らかになった経営上の課題を解消しながら、後継者と二人三脚で策定した事業承継計画、あるいは希望に適った相手とのマッチング条件に沿って、資産の移転、経営権の移譲を進めていきます。
早めに専門家に相談することも有効です。
(中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル より)
ステップ3まできたら、あとは計画書を作成して速やかに実行に移します。
事業承継は親族内・従業員承継に限らず、外部人材の招へいやM&Aなどによる事業の売却、譲渡もあります。
特に外部への引き継を考えている場合は、ステップ3の事業の磨きあげが重要となってきます。
まとめ
事業承継は5~10年先を見越した取り組みになります。
今はまだまだ元気と思っていても、現在の年齢に5~10歳を足したらいくつになりましたでしょうか?
また、いつ何時事故や病気になるかわかりません。
中小企業は経営者への依存度が高いので、事業の継続性を高めるためにも事業承継を見据えた取組みが必要となってきます。
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末信 公平
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