企業経営の「教科書通り」を考える
「教科書」は使い方次第で経営に役立つ
「コンサルタントを雇ったけど、教科書通りの事しか言わないから役に立たないよ」
なんてことをたまに耳にします。
むしろ、自分が会社員の時には同じように思っていました。
「コンサルタントなんだから、もっと目新しいことをやってくれないと」
なんて感じです。
現在は逆の立場になって、また、仕事を通じて、この「コンサルタントを雇ったけど、教科書通りの事しか言わないから役に立たないよ」という考えは半分正しく、半分間違いという認識に変わりました。
教科書通りが悪いわけではないと思いだしたきっかけ
もともと会社員時代から経営に興味を持って、色々なビジネス書を読んでいました。
人それぞれ言うことが違ってたり、同じことをしても上手くいかない場合があったりと、なかなかこれと言ったことをつかめないままでいました。
そんな時、星野リゾートを題材とした「星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則」の書籍を目にしました。
出版は2010年なので、今から8年も前になります。
詳しい内容は本を読んでいただくとして、星野リゾート代表取締役の星野佳路さんの経営の手法のベースは教科書だったのだと驚きました。
この本の存在をきっかけに、「教科書通り」と言うだけで悪いわけではないという考えのきっかけになりました。
もちろん教科書と言っても、ある一冊の本があるわけでなく、様々な専門家が書いた書籍を教科書として利用するという事です。
こちらの本で紹介されている書籍は
戦略は
「競争の戦略」(マイケル・E・ポーター)
「コトラーのマーケティング・マネジメント 基礎編」(フィリップ・コトラー)
など
マーケティングは
「いかに「サービス」を収益化するか」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部編・訳)
「ONE to ONE マーケティング」(ドン・ペパーズ、マーサ・ロジャーズ)
など
他にも多数の書籍を参考にされています。
こちらの、星野佳路の「組織活性化」講座で教科書どおりにやることの意義を説明してくれています。
軸となるのは
- ビジネスを理論として体系化したものである
- 経営の定石を知ることが大事
- 信じ切り、忠実にやり通すことが大切
とされています。
最後には、「小さな組織こそ教科書が生きる」としています。
8年たった現在でも星野リゾートは健在ですので、教科書通りが悪いわけではなさそうと言えます。
中小企業診断士の勉強をして見えたもの、それは経営に絶対の正解はない
経営には興味があったものの、色々な本を読んでもイマイチすっきりとしない。
そんなことを考えていたころ、色々なことが重なり、以前に挫折していた中小企業診断士の勉強を再開させました。
中小企業診断士試験は、1次試験7科目あります。
様々な経営の専門書などをまとめたものとも言えますので、勉強をしていくうちに、徐々に頭のなかが整理されていきました。
そこでわかったことは、当たり前な話ですが
「ある一面だけを見て考えてはいけない。理論の良い面と悪い面を理解して使うことが大事である」
という事でした。
現時点でも十分に使いこなせているとは言い切れませんが、自分のなかで
「経営に絶対の正解はない」
と言った、いい意味でのあいまいさがあるという考えに至りました。
経営戦略は成り立ちを知ったほうが良い
次に思ったことは、経営戦略なり組織論なり、それが提唱された背景を知ることが重要という事です。
その経営の背景を知るうえで最も良い本はこちらの「経営戦略全史」ではないかと思います。
経営の歴史書みたいなもので、成り立ちを理解すれば、その理論の得意な面不得意な面などが見えてきます。
もっとも、私はこちらのマンガ版で済ませましたが・・・
まずは基本が忠実にできているか
星野社長も語られていますが、経営には芸術的な部分の「アート」と、理論の「サイエンス」の側面があります。
教科書的なことと言うのは「サイエンス」よりの発想とも言えます。
そもそも教科書とは、さまざまな具体事例から抽象的にまとめたものと考えます。そして、その抽象化された理論を実際に役立てるものです。
なので、抽象化された理論のなかから、自社の課題解決に最も適切なものはどれかと考えて対策を打つための参考に使います。
そして、多くの経営が困難になっている会社は、この基本的なことができていないことが多いので、教科書的なことから取組み、土台を作ることになります。
この点が、「教科書的なものでつまらない」という経営者と、「基本すらできていないから教科書通りからやりましょう」というコンサルタント側との間にギャップが生じる原因ではないかと考えます。
実際のところ、私がアドバイスをするにしても、教科書的なことからになります。
わかりやすい例で言えば、資金繰りに困っているのに、月別の資金繰り予定表すらなかったり、過去の収支を知るのが何カ月もたってからなど、そもそも基本的なことができていないということです。
また、中小企業に限らないのかもしれませんが、目先の忙しさから計画したことをやり切れず中途半端な状態になり、思い出したかのようにあわてて対策を考えるなど、やり切ることができないことも原因かと思います。
置かれている状況は百社百通り
実際の経営は、歴史や環境、文化などが異なるため、ある理論が上手くいく場合もあれば上手くいかない場合もあります。
多くの経営戦略はアメリカで生まれました。日本の組織に当てはめる場合と少し異なることがあるのかもしれません。
また、歴史の背景が異なる場合はそのことも考慮に入れる必要があります。
人口が増加し続けていた「人口ボーナス期」と呼ばれる戦後からバブル期辺りまでの日本は、基本的に何をしても上手くいきやすい環境だったと言われます。
反面、現在は人口のピークを迎え生産年齢人口は減少している現在の日本とは、環境が異なっているので同じようにはいきません。
それに、組織レベルが高ければ上手くできることも、組織がバラバラでは何をやっても上手くいかないなど、そもそものおかれている状況が会社によって異なります。
そういった意味でも、経営改善はどれから始めるのが良いのか、どの理論を参考にすればよいのかなど、百社あれば百通りとも言えます。
教科書は、現状にどれが必要なのか知るために使う
以上の事から、経営における理論は、自社の置かれている現状を把握し、基本的なことができているのかできていないのかを考えるために使うのが一つと思います。
また、組み合わせ方もどれが良いのかを考える必要もあり、教科書的なことを普段から学んでおくことも大切なことと思います。
今後は日本人が誰も体験したことのない人口減少期での経営を行う必要があるので、より一層考える経営が求められると考えます。
まとめ
「教科書的なものでつまらない」という経営者と、「基本すらできていないから教科書通りからやりましょう」というコンサルタント側との間にギャップが生じることは、ある意味仕方がない事なのかもしれません。
そのように思う経営者の方の気持ちもわかります。
しかしながら、地味な積み重ねが結局は近道という事もあると思います。それを理解してもらうことも、コンサル側の仕事とも言えます。
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末信 公平
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