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「粉飾 特捜に狙われた元銀行員の告白」を読んで思ったこと

2013年3月に発売された本で少し古いですが、事件の発端は東日本大震災に絡む融資から逮捕・起訴されてしまった元銀行員の経営コンサルタントの佐藤真言さんが書かれたものです。
自身も支援先の融資に関わる仕事をしていますので、興味深く読ませてもらいました。

新型コロナウイルス感染症対策として融資制度が作られましたが、関係してくる場面もあると思います。

粉飾 特捜に狙われた元銀行員の告白

本を読めば、著者は決して悪人でもなく、むしろ中小企業のために必死に汗をかいて経営改善に経営者と一緒に取組んでいた素晴らしい人であることがわかります。

こちらは同じ事件を記者目線で書かれた本です。発売が2012年9月と、当事者ご本人がかかれた本より発売が半年先行しています。

はじめは「粉飾決算をして融資を引き出す悪い人」くらいの認識から、佐藤さんとのやりとりや取材などから実態は全く異なることを認識し、検察庁特捜部の卑劣さ、金融現場の実状と現実を知る事になります。

四〇〇万企業が哭いている ドキュメント検察が会社を踏み潰した日

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2冊を読むと、違った角度から事件の事が立体的につかめます。

中小企業への融資の実状から、「融資を受けるには粉飾はやむなし」としていたことが、逮捕起訴につながってしまいました。

以下ネタバレ含みますので、ご注意ください。


中小企業の粉飾決算は融資を受けるために手を染めるケースが多い

粉飾決算をしたことによって罰則対象(有価証券報告書の虚偽記載・詐欺・違法配当・特別背任・損害賠償)となることもありますが、中小企業の多くが粉飾決算に手を染める理由は「融資」を受けるためと想像します。

ですが粉飾決算をして融資を受けた場合は、「詐欺」に該当する恐れがあります。

現場の実状と法律 ホンネとタテマエ

金融機関の現場では、融資を出すためには粉飾を暗に求める金融機関の担当者がいて、そこは暗黙の了解の元進められてきた実態があるから、佐藤さんは「融資を受けるには粉飾はやむなし」と考えるようになります。

この本に書かれている事件でも、金融機関側は粉飾での融資を問題にしていませんでした。そこには暗黙の了解があったためと思われます。

ですが、検察の圧力に屈して被害届を出すこととなりました。

佐藤さん自身も元銀行員で、自身の経験から内情を知ったうえでのことです。

そのため、「法律的には悪いことかもしれないが、金融機関の実情から、会社を守るためには粉飾もやむを得ない」と一貫して主張しています。

検察の取り調べにも「中小企業と金融機関の実状を正直に話せばわかってくれる」と考え、はじめから認めています。

経営支援はどこまで踏み込むのか?を考えさせられる

ただ、私自身は「コンサルタントとして粉飾を経営者に対し助言・指示をして融資を受けるのは、さすがに行きすぎ」と考えます。

佐藤さんの考えも、全くわからない訳でもないですが、私とは経営支援をする線引きが異なります。

苦しんでいる経営者からすれば私より佐藤さんの方が「より親身になって助けてくれる人」に映るかもしれません。

ですが私自身は、法律を犯すリスクを経営者に負わせる助言をして支援することが良いこととは思わないです。

本を読めば「なんとか助けたい」といった経営者の方なので、余計に判断が難しい会社なのですが、結果的には裏目に出てしまいました。

佐藤さんとしては、「うまくいくケースもあるし、実際あった」と言う事で何とか存続させて経営改善を図り正常化させたい一心という心情は、同業としては痛いほど伝わりますし、佐藤さんなら実際うまく経営改善を果たしたかもしれません。

検察庁特捜部のやり方は心底恐ろしい

この本を読んでいて一番恐ろしいと感じたのは、検察庁特捜部のやり方です。

もうストーリーありきで、何としても犯罪人に仕立て上げようとする、権力を盾に好き放題する恐ろしさがあります。

実際の検事の人も、個人としては普通の人かもしれませんが、組織のなかで動くとこうも恐ろしいことをしてしまうのかを、怖くなりました。

特捜では,政治家の汚職,脱税,大企業の役員等による詐欺・特別背任・業務上横領,不正競争防止法違反,大規模な粉飾決算・偽計・風説の流布・インサイダー取引その他金融商品取引法違反など,ホワイトカラー犯罪が多く扱われています。カルテル・入札談合その他独占禁止法違反・投資詐欺など特殊な経済事件や,国際カルテル,犯罪人引渡事犯などの国際刑事事件も扱われています。
このように,特捜は,政治家・大企業役員など「権力」を持ち通常の捜査機関等に対して影響力を行使しかねない者が関与する事案,被害が広範・多額で,世に大きな影響を及ぼす事案など,複雑・難解で,証拠も多岐・多量にわたり,罪証隠滅もなされやすいゆえに,慎重かつ大掛かりな捜査が必須な事件を取り扱うという特徴があります。それだけに,特捜には,エリート中のエリート検事が集められると言われています。

弁護士法人中村国際刑事法律事務所HP

特捜とはこのような事件を扱うと思ってましたが、なぜ佐藤さんのような一般市民がターゲットになったのかも本には書かれています。

ターゲットになった理由も、「自分たちの組織のため、都合よくストーリーを考えていた」ことが発端で、心底恐ろしく思いました。

法を犯すと、足元をすくわれる

法を犯すと、正論でやられてしまいます。

通例や暗黙の了解かもしれなくても、弱みを握られることになります。

そう言った意味では、法を犯すとどこで足元をすくわれるかわからないリスクが付きまとうことになると、この本を読んで痛感しました。

粉飾は経営改善の観点からも勧めない

私の本業は経営改善や資金繰り改善を支援する仕事ですが、その立場からも粉飾はお勧めしません。

もちろん法を犯すといった事もあるのですが、それとは別に、問題の先送りにしかならず、うまくいくケースはほとんどないと考えるからです。

簡単に言いかえれば粉飾決算とは嘘の報告となるのですが、嘘をついてその場限りの窮地をしのいできた経営者が、その後抜本的に改善に到ったケースは少ないのではないでしょうか。

金融機関との関係性づくりは経営にとても大事

本当の姿を金融機関に知ってもらってでも支援をしてもらえる関係性づくりが、金融機関との本来の形と考えます。

「晴れた日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」と言われる金融機関ですが、実際にそのようなところもありますし、親身に支援をしてくれるところもあります。

金融機関との関係を上手に保ちながら経営することは、中小企業にとってとても大事です。
メイン行にべったりとなりすぎず、かと言って目先の金利だけに振り回されず、上手な関係性を構築することも中小企業の経営者には求められます。

コロナ融資でも同様に注意が必要

この事件のケースは、東日本大震災での震災保証制度が発端です。
同様な条件でコロナ融資や様々な補助金や助成金もありました。
虚偽記載には十分に注意する必要があります。

服役後5年で司法試験に合格した不屈の人

最終的には実刑を受け服役をした佐藤さんですが、2019年に司法試験に合格されました。

本当にすごい方です。

ですが、佐藤さんが弁護士になれるかと言えばそうではなく、法曹界の不条理の壁にぶつかっています。
(ググっても2019年時点の話しか出てきませんでしたので、現時点ではわかりません)

佐藤さんは「“謂れなき刑事事件”で苦しめられる人を弁護人として救いたい」と話をされていますので、弁護士となり活躍してもらいたいと願っています。

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